代表弁護士の川村です。久しぶりにトピックを更新いたします。
今回は少し長文となりますが、先日お世話になっている税理士先生の勉強会にて顧客様に対してお話しさせていただいた内容を元に、「中小企業経営における弁護士の積極的活用について」記したいと思います。

特に、中小企業経営者の方で、日頃弁護士が身近におらず、そもそも弁護士にどういうことを相談したら良いの?という方に参考にしていただければと思います。

【中小企業の弁護士利用の実態】

少し古いアンケートですが、日弁連が行った「中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書(2008年3月)によれば、中小企業が弁護士を利用したことがあるかどうかについては、東京では、訴訟等の法的手続のみで26.1%が利用、それ以外の事項も含め49.6%が利用し、全体では75.7%が弁護士を利用した経験を持っています。

これに対し、東京以外の全国では、訴訟等の法的手続の弁護士利用度は 23.2%と変わらないものの、訴訟等以外の事項に関しては28.6%であり、全体として 51.8%の利用経験しかないとのことでした。

ということは、東京以外の地方では、実に中小企業の約半数は今まで弁護士を利用したことがないということになります。これは少し驚くべき実態だと個人的には感じています。

【なぜ弁護士に相談しないのか?】

日弁連の前記アンケートでは、なぜ弁護士に相談しないかについてもアンケートを行っています。その結果は以下のとおりです。

特に弁護士に相談すべき事項がないから ………. 74.8%

弁護士以外の相談で事足りているから …………. 21.9%

日頃あまり接点がないため頼みにくい …………. 13.6%

費用がかかる・費用が高いから ………………… 15.7%

弁護士は探しにくいから …………………………. 5.3%

この調査結果をみれば、やはり現在でも、中小企業にとって、弁護士という存在は身近ではなく、また、その活用方法も十分に浸透していないことを示しています。

ただ、「特に弁護士に相談すべき事項がないから」という点については、額面通りには受け取れないように思います。「弁護士に相談すべき事項かどうか」という点について、弁護士と中小企業経営者の側に認識のずれがある可能性が十分にあると考えられるのです。

例えば、我々弁護士が顧問先企業様から日常的にご依頼を受けている業務である「契約書のリーガルチェック」ですが、前記アンケートによると、これを「法的な課題」として意識している中小企業は、全体としては、東京では34.9%、東京以外は16.1%、全体でわずか19.2%の企業が法的課題と意識しているに過ぎないとのことなのです。

しかし、「契約書のリーガルチェック」が、「法的課題」の最たるものであることは(少なくとも我々弁護士にとっては)疑いありません。

【契約書のリーガルチェックとは】

我々が日頃ご依頼を受ける「契約書のリーガルチェック」ですが、チェックを依頼される契約書には、取引基本契約書、秘密保持契約書が最も多い印象ですが、その他業務委託契約書、システム開発契約書、保守契約書、代理店契約書(業務提携契約書)、OEM契約書、工事請負契約書、設計契約書、賃貸借契約書、労働契約書、不動産売買契約書、特許権等実施許諾契約書、フランチャイズ契約書(以上順不同)等々各種の契約書が含まれます。

【事前の弁護士によるチェックの重要性】

1 例えば、取引基本契約書を例にとります。多くの中小企業では、自社独自の契約書の書式を保持しておらず、適当にネット等で公開されているひな形を探して用いていたり、あるいは、先方企業が提示してきた契約書式を中身の十分な検討もないまま押印しているといったケースが実は多いのではないでしょうか。

しかしこれは企業経営を行うにあたり望ましい態度とはいえません。

2 企業間で取引を開始するにあたり、「相互の権利義務を明確に定めておくこと」はすべての出発点になります。取引には相互の企業の「信頼関係」構築が必要ですが、企業間の信頼関係とは、いかなる場合でも「契約書」が出発点であり、かつ、最後に立ち返るべき拠り所でもあるのです。この重要性は、いかに強調しても強調しすぎることはありません。

私も所属している経営者団体などでも、中小企業の経営者の方々とお話ししていると、この点の認識が十分でない方が意外に多いように見受けられます。

3 例えば、「先方の企業はきちんとした企業なので信用しているから提示された契約書も問題があるはずがない」とか、「契約の当初から紛争になった場合を想定するのは、結婚する時に離婚の条件を決めるようなもので、何となく縁起が悪いし、契約書にこだわるのは、相互の信頼関係の構築にかえって水を差すのではないか」、「そもそも本来契約書など無くても、互いの信頼関係さえあれば良いのであり、契約書であれこれ細かいことを決めるのは先方を疑っているようで水臭いし、自分の倫理観としても受け入れにくい」等々の趣旨のことをおっしゃる方は結構多いのです。

しかし、私は企業間の取引のベースとなる信頼関係と、個人の信条やモラルを混同することは企業経営者として正しい態度ではないと考えています。特に、一昔前の日本社会であればいざ知らず、現在の日本では、社会の仕組みも複雑化し、価値観も多様化しており、なおさらそのように考えるべきだと思っています。

4 企業間の取引を開始するにおいて、まだその企業間の信頼関係は何も形成されていません。その中で本当に頼るべき「善意」や「信頼」は存在しているでしょうか。実体はあるのでしょうか。

実は、我々弁護士の経験からすれば、企業間取引で紛争が生じる大きな原因に、「契約条項が曖昧である」という点があげられます。

契約条項が曖昧だとどうなるか。契約条項が幾通りにも解釈できてしまうことにより、取引当事者間で解釈が異なってしまい、そのことで紛争が生じるケースが本当に多いのです。互いに主観的には自分たちの解釈の方が正しいと思っているのですから、相互の主観的な「善意」や「信頼」でこのような認識の不一致を解消することは大変困難なことなのです。

そのような事態を未然に防ぐためには、契約書の条項の文言を、事前にできる限り「一義的かつ明確に」しておくことが求められるといえます。各企業間の取引は千差万別ですし、各種取引に応じた特殊事情もあるかもしれません。それを法律の専門家でない方が独自の解釈や作法で対応してしまうことは非常に危険を伴います。我々弁護士の目から見れば、そもそも「紛争発生の余地を取引当初から抱えている」といったことになりかねません。

当該企業にとって重要な契約書であるからこそ、それを締結する前に、弁護士という法律の専門家の事前チェックをうけ、あるいはオーダーメイドで当該取引に最も適切な契約書書式の作成を依頼すべきだといえるのです。

5 もとより企業経営には責任が伴います。もし、その取引で万一紛争が生じた場合に、契約書が自社の法的権利や利益を十分に守られる条項になっていない場合、あるいは容易に紛争を生じやすい契約書となっていた場合、事によっては経営状態や会社の存続にすら重大な悪影響を及ぼすリスクもあるのです。
逆に、経営者の法的な物事に対する適切な意識や態度(これを「リーガルマインド」といいます)次第で、そのような事態をできる限り防ぐことができるのです。

取引を開始するにあたり、当該取引に含まれる潜在的なリスクを洗い出して、そのリスクを評価し、重要なリスクについては事前に契約条項できちんと手当をしておく、契約条項で不明確な表現は明確な表現に手直しする、紛争が生じやすいと思われる事項について事前にルールを明確化する、そのことによって、「紛争の発生を未然に防ぐこと」が、契約書のリーガルチェックにおける主たる目的です。

その意味で、「契約書とは紛争が発生した場合にどうするかを決めておくもの」(≒紛争発生を予想させる忌まわしいもの)という多くの経営者が抱いておられる前記の印象も十分的を射たものとは言えません。

6 また、契約書をできる限り「自社に有利に」しておく、というのが「契約書のリーガルチェック」の大きな目的だとは個人的には思いません。取引は相互の利益のバランスが取れていなければ長続きするはずはありません。企業間で末永い取引関係の構築を目指すのであれば(多くの企業の本来の目的はそこにあるはずです)、ことさら「自社に有利」にこだわるのは得策ではなく、むしろ相互の取引利益にバランスの取れた契約書を取り結ぶことが適切であり、望ましいといえるでしょう。
この点は弁護士によって考え方が異なる可能性はありますが、私自身はそのように考えています。

7 このように、契約書の事前のリーガルチェックは、自社に一方的に有利な取引を目指そうとしているものではなく、相互の権利義務を取引開始当初に一義的かつ明確に定めておくことにより、相互の認識の不一致からくる紛争の発生を未然に防ぐことに主眼があり、また同時に、紛争発生時にもその解決ルールを事前に明確に定めておくことによって万一の紛争発生時にもその解決を容易にすることを目的としています。
すなわち、互いの企業にとっての利益となるよう事前に相互にリーガルチェックを行い、上記のような目的に適う適切な契約書を協力して作り上げてゆく作業であるのです。

まずは、そのことの認識を深めていただきたいと思っています。

8 なお、多少付言しますと、中小企業の経営者の中には、結局のところ大企業の提示してきた定型的な契約書式であれば、仮に自社で問題だと思って修正を願い出ても絶対に応じてもらえないから、最初から契約書を検討する意味がないというようなことをおっしゃる方もおられます。

しかし、仮にその「問題だと思う点」が自社にとって非常に重大なリスクを含むものである場合、極端に言えば「当該取引自体を行わない」という選択肢を検討することも必要なはずです。また、例えば契約書本文の修正は無理でも、別途修正部分だけ外出しした「覚書」の締結であれば応じてもらえることもありえます。相手企業にとって貴社の商品やサービスが重要なものであればそのような契約交渉も可能となってくるはずです。弁護士と相談しながらそのような交渉の余地を探るのが望ましいといえます。

【中小企業経営における弁護士の役割】

当事務所では、弁護士は企業経営の「パートナー」の役割を担うことができるのであり、どのようなことでも相談していただくのが望ましいと考えています。できれば、顧問契約の締結があれば、その都度時間や費用を気にせずに、気軽に相談していただくことが可能です。

そして、そもそも弁護士に相談すべき法律問題であるかどうか自体が分からなくても弁護士に相談していただくのが良いと考えていますし、顧問先様にも常々そのようにお伝えしていますし、そのためにアクセスの良い環境や雰囲気づくりに配慮しています。

ご相談事項が法律問題であればもちろん我々自身で対応できますし、それ以外の問題であれば、我々の有している幅広いネットワークの中から、その問題に対応するのに適切な税理士、司法書士、弁理士、建築士、不動産業者等の専門家のご紹介をさせていただくことが可能です。

先の日弁連の調査報告でも触れられていますが、以上のように、弁護士は、企業の「総合的診断者」として、町のかかりつけ医のように、企業の経営上のあらゆる問題についての「プライマリケア」を担当することができます。

中小企業の経営者の皆様には、ぜひ積極的に我々弁護士のリーガルサービスを日々の企業経営の各場面においてご活用いただければと願っております。

当事務所における具体的な各種サービスの内容や顧問契約の内容、費用面等につきましては、当HPの該当箇所をご参照いただけましたら幸いです。