企業の保有する「製造方法のノウハウ」や「顧客情報」。これらの「営業秘密」が外部に流出してしまうと、企業は多大な損害を被る恐れがあります。このような「営業秘密」は「不正競争防止法」によって保護を受けることができますが、そのためには、「秘密管理性」の要件を満たす必要があります。つまり企業内において適切な「秘密管理」が行われていることが前提となります。

これに関し、経済産業省は、平成15年1月に「営業秘密管理指針」を策定・公表していましたが(その後法改正に伴い、平成17年、平成22年、平成23年、平成25年に改訂)、本年(平成27年)1月28日、この「指針」が全面改訂されました。

http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20150128hontai.pdf

これまでの「指針」(以下「旧指針」)は80頁を超える大部なものでしたが、今回全面改訂された「指針」(以下「新指針」)は本文17頁の非常にコンパクトな内容で、不正競争防止法による保護を受けられるために必要となる「最低限の水準」の対策を示すものとして作成されました。

この点「新指針」1頁では、「改訂前の指針は、営業秘密に関する不正競争防止法の解釈のみならず、情報管理に関するベストプラクティス及び普及啓発的事項をも含んでいた。…本指針は、不正競争防止法によって差止め等の法的保護を受けるために必要となる最低限の水準の対策を示すものである。漏えい防止ないし漏えい時に推奨される(高度なものを含めた)包括的対策は、別途策定する「営業秘密保護マニュアル」(仮称)によって対応する予定である。」と説明されています。

「新指針」は「旧指針」と比べると、中小企業の現場でそのまま使いやすい内容になっていると思われます。ただ、旧指針もそうですが、新指針もあくまで「法的拘束力」を持つものではないので、実際に紛争が生じて裁判となった場合には、最終的には、裁判所において、個別の具体的状況に応じ、他の考慮事項とともに総合的に判断がなされることに留意が必要です。

また、今回の「新指針」では、「人的管理」の側面に対する記述がほとんどありません。「人的管理」とは、従業員に対する認識可能性を担保し、秘密管理に対する規範意識を向上させるものとしての、就業規則の条項の制定や、秘密管理されている「営業秘密」の範囲を特定するための「入社時」「管理職就任時」「プロジェクト参加時」「退職時」等に徴求すべき「誓約書」、あるいは企業内の研修・教育といった方策のことですが、新指針では旧指針と比較すると、これらについての方策の記述が顕著に省略されてしまっています。

しかし、過去の裁判例をみても、営業秘密漏えい事案は、外部者によるものより、内部の従業員や退職者によるものが大半です。そういう意味で、今後も営業秘密管理においての「人的管理」の重要性は変わらないものと思います。

最近も、家電量販店や自動車メーカーの元従業員による営業秘密の漏えい事件に関し、相次いで報道がなされていました。相応の「物理的管理」はなされていたことと思いますが、このような事案を防止するためには、就業規則で適切な条項を制定し、重要な場面で適切な内容の「誓約書」を従業員から取得しておくことはもとより、社内において、定期的に研修や教育を行い、従業員の営業秘密に対する規範意識の向上と啓蒙を図る地道な努力が今後もやはり重要であるといえるでしょう。