先日のトピックスでも取り上げましたように、本年1月28日に経済産業省より「営業秘密管理指針」の全面改訂版が公表されるなど、近時「営業秘密」の保護に関心が高まっているところです。

上記トピックスでも触れましたが、企業の「営業秘密」が不正競争防止法により保護を受けるためには、「秘密管理性」の要件を満たす必要があります。つまり企業内において適切な秘密管理が行われていることが前提となります。その判断にあたっては、個々の従業員との間において、保護されるべき秘密の範囲を明確に特定し、従業員における「客観的な認識可能性」を担保しうる適切な「秘密保持契約」が締結されていたかどうかも、一つの重要な判断要素とされます。

この点、正社員の場合であれば、就業規則等において秘密保持義務を規定したり、入社時や特定のプロジェクトへの参加時等において営業秘密の範囲を明確に特定した誓約書の提出を個別に受けることで適切な秘密管理が図れるといえます。

問題は、派遣社員の場合です。社内の新しい業務システム用ソフトの開発のために技術者の派遣を受ける場合など、派遣社員といえども企業の重要な営業秘密に接する機会は多くあります。この場合、適切な秘密管理の必要性は正社員と全く異なりません。2014年7月に発生したベネッセコーポレーションの顧客データベースで秘密管理されていた大量の顧客情報が不正に持ち出されていた事件も、顧客データベースの保守管理を委託されていた会社に勤務する派遣社員によるものでした。

ここで問題になるのは、「労働者派遣」という契約形態です。労働者派遣においては、労働者はあくまで派遣元が雇用する従業員であり、派遣先は派遣元との間の労働者派遣契約に基づき当該労働者に対する指揮命令権を取得するに過ぎず、直接の雇用関係はありません。そのため、そもそも派遣先の就業規則は適用されません。労働者派遣契約において秘密保持義務が規定されることも多いのですが、これはあくまで派遣元が派遣先に対して負う義務にとどまり、派遣社員に派遣先に対する直接の秘密保持義務を負わせるものではありません。さらに、このような規定の多くは契約雛形を利用した概括的一般的規定に過ぎず、当該派遣社員において「営業秘密」に対する「客観的な認識可能性」がないとの理由から保護を受けられないリスクが残ります。

そこで派遣先としては、派遣社員から直接「秘密保持誓約書」の提出を受けておくことが重要です。

これにより、派遣社員が派遣先に対して直接秘密保持義務を負うこととなります。なおかつ、派遣先と派遣社員との間で保護されるべき秘密の範囲を明確に特定して認識の共有を図ることが可能となり、同時に、秘密漏洩の防止について派遣社員の自覚、注意を促すという事実上の効果も重要です。物理的な管理措置も重要ですが、結局はこの問題は最後は従業員の規範意識にかかっているともいえるからです。

とはいえ、派遣先が派遣元に無断で派遣社員から直接誓約書を取得することは労働者派遣法の趣旨から好ましくないという見方もありえます。そこで、このような秘密保持誓約書を取得する前提として、派遣元との間の労働者派遣契約のなかで、派遣先が派遣社員から秘密保持誓約書の提出を求めることができる旨の規定を設けておくことが望ましいでしょう。

また、秘密保持誓約書の内容としては、正社員の場合と同様、(1)対象となる秘密情報の範囲、(2)秘密保持義務及び付随義務の内容、(3)例外規定、(4)秘密保持期間、(5)義務違反の場合の措置などといった項目を規定することになります。

特に(1)については、「職務上知り得た秘密事項一切」などといった概括的一般的な内容ではなく、情報のカテゴリーや保存媒体等を示すなどして、保護されるべき秘密の範囲をできる限り明確に特定しておくことが重要です。

(2)についても、営業秘密の記録媒体の複製・社外持出し・送信の禁止や、営業秘密の適正管理のため、「作業室内に携帯電話の持ち込みを禁ずる」、「ID・パスワードを他人に譲渡し、あるいは開示してはならない」といった具体的な義務まで詳細に規定しておくことも考慮されても良いでしょう。なお個人情報保護法の観点からは、ここであわせて、個人情報の非開示義務を規定しておくことも有用といえます。