前回不正競争防止法2条1項1号の「周知表示混同惹起行為」をご紹介しました。

これは、周知な他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用したり、あるいは、その商品等表示を使用した商品を譲渡したり、輸出入したりして、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を規制するものであり、「周知」な「商品等表示」であることがその要件の一つとなっています。

ところで、この「周知商品等表示性」はいわゆる「口頭弁論終結時」に必要です。事実審(一審あるいは控訴審)の口頭弁論が終結するまでこれが維持されていなくては、少なくとも差止めを求めることはできません。

この点で興味深い裁判例があります(東京高判平12.2.24判時 1719号122頁【エレクトリック・ギター事件控訴審】)。

この事件では、米国の有名なギターメーカーであるギブソン社が1952年から製造・販売を行っているエレキギター「レス・ポール(モデル)」の形態の周知商品表示性が問題となりました。「レス・ポール」は、フェンダー社の「ストラト・キャスター」と並んでエレキギターの著名なモデルです。(ご存じない方は、Wikipedia等で検索してみてください)

このギブソン社が、日本国内で「レス・ポール」の模倣品を販売していたF社に対し、当該模倣品の販売の差止めや損害賠償を求め、平成5年に東京地裁に提訴しました。

一審ではギブソン社の主張が認められず周知商品表示性が否定され(東京地判平10.2.27)、同社が控訴していました(何と一審段階で4年以上かかっているのも時代を感じさせます)。

控訴審が認定した事実の概要は次のようなものでした。

ギブソン社は、1952年、ギター演奏者で開発協力者のレス・ポールの名をとった新型のエレクトリックギター(最初の「レス・ポール」モデル)の製造販売を開始したが、その後米国におけるロック音楽の熱狂的ブームに乗り、米国および英国でも、1960年代に入って、ギターブームを迎え、エレクトリックギターの需要が増えていった。

ギブソン社が1960年までに販売していた製品、特に1958年型は、当時最も人気の高いロックバンドの一つであるレッド・ツェッペリンのギター奏者であったジミー・ペイジに愛用され、その他にも、エリック・クラプトン、ジェフ・ベックなどといった著名なロック音楽の演奏家が愛用し、米国や英国における多数のロック音楽の演奏家やファンの間で注目を集めたため、ギブソン社のレス・ポールは米国や英国でエレクトリックギターにおける著名な名器としての地位を確立し、その形態も周知著名となった。

米国及び英国におけるロック音楽の人気は、音楽雑誌、レコードその他の情報手段を通じて、我が国にも流れ込み、特に前記のジミー・ペイジ、エリック・クラプトン、ジェフ・ベックは、我が国においても高い人気を呼んだ。音楽雑誌「ミュージック・ライフ」には、しばしば、著名なロック音楽の演奏家に関する報道やインタビュー記事とともに、本件商品を使用して演奏する演奏家の写真も掲載されていた。

他方で、F社その他の楽器製造業者による模倣品も1968年以降、複数の会社から多数販売されていた。

以上のような事実関係から、判決は、まず、「本件商品は、遅くとも昭和48年(1973年)ころには、我が国のロック音楽のファンの間で、エレクトリックギターにおける著名な名器としての地位を確立し、それとともに、本件商品の形態も、ギブソン社の商品であることを示す表示として周知となった」として「レス・ポール」の商品形態が周知商品表示性を獲得したことを認めました。

しかしながら、他方で、本件商品の形態が出所表示性を獲得した前後のころから、判決当時である平成12年ころに至るまで20年以上にわたって、数にして多い時には10数社の国内楽器製造業者から30以上ものブランドで、類似形態の商品が市場に出回り続けてきたという事実を指摘し、しかも、これに対して平成5年(1993年)までの間、すなわち、本件提訴がなされるまでの間は、ギブソン社によって何らの対抗措置を執られていないことも認定し、そうであれば、「需要者にとって、商品形態を見ただけで当該商品の出所を識別することは不可能な状況にあり、したがって、需要者が商品形態により特定の出所を想起することもあり得ない」と指摘して、結局のところ、「このような事実関係の下では、前述のように一旦獲得された本件商品の形態の出所表示性は、遅くとも平成5年より前までには、事実経過により既に消滅したものというほかない」と判示しました。

私自身リアルタイムでロックにはまっていた世代ですので、「レス・ポール」の著名性も、それを模倣して国内のメーカーが格安で模倣品を販売していたこともリアルタイムで知っています(私自身レス・ポールの模倣品のギターを昔持っていました)。

ギブソン社がなぜ平成5年まで模倣品対策をとっていなかったのかは判決文からはよく分からず謎といえますが、多数の模倣品が出てくることは著名性の裏返しとも言えるし、日本におけるロックブーム、あるいはロック市場の拡大や自らの著名性の確立のために当初は鷹揚に構えていたということなのかもしれません。

しかし、一旦周知性を獲得した商品等表示であっても、長年模倣品の販売を許し、放置していると、不正競争防止法で保護されなくなることを指摘したこの裁判例には十分に留意しておく必要があるといえます。

周知商品表示性が認められるためにはそれなりの高いハードルがあることは前回指摘したところですが、このハードルを超えることができたなら、その状態を維持しておくために模倣品対策はしっかりと取り続けておくことが大切です。

逆の観点から言いますと、周知表示混同惹起行為で差止め等の請求を受けた場合、市場で類似品、模倣品が多種多数にわたり販売されていることを指摘することが有効な防御法となりえるということでもあります。