1 最近のことですが、「寝そべり宗教学」という宗教をテーマにしたメールマガジンで、「神社でお参りしてみよう!宗教学誕生の背景」「イスラム教の『ハラール』って?」「イスラム国が世界の終わりを信じてる!?」などの内容で配信されていたところ、アラブ研究者で東大先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏から自己の著作からの剽窃(ひょうせつ)であるとの指摘があり、同メールマガジンの配信会社が、過激派組織「イスラム国」について池内氏の著書の内容などをもとにメールマガジンを執筆した事実を認め、池内氏と読者に謝罪したというニュースがありました(平成27年3月17日)。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2015/03/17/kiji/K20150317010002610.html

このような「他人の著作物の盗用」の問題は最近に限ったことでもなく、しばしばこのような報道に接します。先のSTAP騒動でも、件(くだん)の女性研究者において、学位を取得した大学での博士論文に盗用があったという報道がなされていたことも記憶に新しいところです。

2 ところで、「盗用」や「剽窃」などといわれる行為と、「引用」という行為とでは、どこが違うのでしょうか。「引用」は、著作権法上の一定の要件を満たせば適法な行為とされているものです。

そもそも、書籍やウェブ上で発表された他人の論稿、記事、写真、イラストなどは「著作物」にあたり、日本の著作権法及びベルヌ条約などの国際条約により保護を受けます。著作権者に無断で複製等の利用をすることはできません。なお、著作権法第10条は、「言語の著作物」「写真の著作物」など代表的な著作物の例を挙げています。

なお、参考までに、新聞社等が新聞や電子メディアで発信する記事などの情報、報道写真もこれに該当します。ちなみに第2項で「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、・・・著作物に該当しない」と規定していますが、これは、いわゆる「人事往来、死亡記事や交通事故に関する記事等単に事実をら列したにすぎない記事」などに限定されると考えられており、単なる事実の伝達を超え、記者によって表現に差が出るような記事は、当然著作物であると理解されています。

ですから、他人の書籍やウェブ上で発表された論稿、記事や新聞等のニュース記事・写真・イラストなどを勝手に自己の著作物に転載等すれば原則として著作権侵害になるのですが、これには「例外」があります。すなわち、「私的使用のための複製」「引用」や「学校その他の教育機関での複製等」など著作権法が定める一定の場合(第30条以下)には、「著作権」が制限されており、著作者の許諾がなくとも利用することができることになっています。ただ、利用が認められる場合であっても、著作者の意に反した変更、削除は「著作者人格権」を侵害するためできません(第50条)。さらに、これらの規定に基づき複製されたものを目的外に使用することは禁止されています(第49条)。また、利用にあたっては,原則として出所の明示をしなければなりません(第48条)。

3 上記の著作権法の定める一定の「例外」のうち、本稿で関連するのは「引用」の場合(第32条)です。
著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定めています。

すなわち、著作権法は、①公正な慣行に合致すること、②引用の目的上、正当な範囲内で行われることを条件とし、自分の著作物に他人の著作物を引用して利用することができるとしているものです。
そして、一般的に、引用にあたっては次のような事項に注意しなければならないとされています。

(1)他人の著作物を引用する「必然性」があること。

(2)かぎ括弧をつけるなど、「自分の著作物」と「引用部分」とが区別されていること。

(3)自分の著作物と引用する著作物との「主従関係」が明確であること(もちろん自分の著作物が「主」の方です。)。

(4)「出所の明示」がなされていること。

一般に他人の著作物を参照しながら自分の文章を作成することは多いと思われます。ホームページなどのコンテンツの作成の際に他人の著作物を利用するような場合には、「引用」に関して上述したところを含め、著作権法の概要についてきちんと理解したうえ、著作権に十分な配慮を払うことが必要です。

4 最後に本テーマと直接の関連はないですが、これも最近のこと、東京大学の石井洋二郎教養学部長が平成26年度教養学部の学位記伝達式(平成27年3月25日)で行った式辞というものを読みました。
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/history/dean/2013-2015/h27.3.25ishii.html 東京大学「平成26年度教養学部学位記伝達式 式辞」

同学部長はこのスピーチで、東京オリンピックが開催された年である1964年3月に行われた東京大学の卒業式で当時の東大総長が語ったとされる、「肥った豚よりも痩せたソクラテスになれ」という有名な言葉をめぐり、本稿のテーマである「著作物の引用」の問題と絡めて、「あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること、この健全な批判精神こそが、文系・理系を問わず、「教養学部」という同じ一つの名前の学部を卒業する皆さんに共通して求められる「教養」というものの本質なのだ」と指摘されています。また、最後の締めくくり部分ではウィットに富んだユーモアも交え、万感の思いをもって卒業生を送り出される素晴しいスピーチをされています。

昨今、ネット上等では雑多な情報が日々溢れており、それらはコピペやリツイートにより一瞬にして拡散され、やがてそれは「真実」として独り歩きし、誰もがそれを鵜呑みにし、批判精神を働かせることもない。このような昨今の風潮に対し警鐘をならされている上記のスピーチを読み、一昨日(平成27年4月7日)に報道されていた女優の藤原紀香さんの炎上発言問題を重ね合わせ、なるほどと思った次第です。

http://news.livedoor.com/article/detail/9977988/ 藤原紀香「底辺コメント」でネット炎上 完全否定し「とほほです」