厚生労働省の発表によりますと労働委員会が扱う労働争議の調整事件における合同労組(所属する職場や雇用形態に関係なく組織された労働組合)への駆け込み訴え事件の割合は、年々増加傾向にあります。駆け込み訴え事件とは、労働組合に加入していなかった労働者が、自らの抱えている労働問題を解決するためだけに労働組合に加入し、団体交渉などを求めてくる事件のことをいいます。このような状況ですので、今まで労働組合のことを意識したことがないという会社でも、従業員が合同労組などの労働組合に加入し、その労働組合から団体交渉の申入れがあるかもしれません。

では、労働組合から団体交渉を申し入れられた場合どうすればよいでしょうか。

まず、労働組合からの団体交渉申入れは書面でなされますが、郵送、FAX、労働組合の幹部が会社に持参してくるなどの方法があります。郵送、FAXの場合には、団体交渉申入書を受領するか否かの問題は生じませんが、労働組合の幹部が会社に持参してきた場合には、その書面を受領するか否かの問題が生じます。会社としては、名前を聞いたこともない労働組合からの団体交渉申入れですから、その書面の受領を拒絶したくなるところではありますが、団体交渉申入書の受領拒絶は、その行為自体が団体交渉の拒絶と受け取られかねませんので、まずは受領してください。なお、その時点で団体交渉の日時などを確定するように迫られることもありますが、これについては、断ったうえで、後日書面にて回答する旨を伝えていただければ結構です。

団体交渉の拒絶と受け取られることが何故問題かといいますと、正当な理由のない団体交渉の拒否は労働組合法7条で不当労働行為とされており、民事上の損害賠償責任を負う可能性や、罰金等の刑事罰につながる可能性があるということもありますが、初期の対応で明らかに違法な行為を行うことにより、労働組合側が、会社が法的アドバイスを受けずに対応をしていると考え、会社が応じるべきでない要求をしてくる可能性があるからです。具体的には当該組合に加入する労働者の処遇については事前に当該組合と協議することといった要求をしてきたりすることがあります。

次に、団体交渉申入書を受領した後ですが、団体交渉申入書の交渉事項を確認のうえ、労働者の労働条件、その他の待遇や労働組合の団体的活動に関する事項であれば交渉に応じなければなりません。これらの事項に関する団体交渉申入れであるにも関わらず、団体交渉を拒否すると不当労働行為となります。そして、団体交渉に応じる場合には、その日時、場所、出席者などについて検討のうえ、書面にて回答します。

いざ団体交渉に入った際に留意していただきたいのは、団体交渉に応じる義務があるからといって、労働組合の要求に全て応じる必要はないということです。団体交渉に応じるというのは、協議の場を設け、誠実に対応することをいい、労働組合の要求に応じるということを意味するのではないからです。そこで、団体交渉に入った際には、まずは労働組合側の要求を聞き、そして、その要求が法律上応じる必要のある要求か否か、そうでなかったとしても、会社として要求に応じるべきか否かを判断していきます。そして、要求を拒絶する場合には、その根拠も示す必要があります。根拠もなく単に拒絶するだけでは、誠実に団体交渉をしたとはいえず、団体交渉を拒絶したと同視される可能性があるからです。実際には、会社が法的に労働組合の要求に応じる必要があるのは、会社に違法行為があった場合に限られるので、残業代の未払があった場合などのごく限られた場合です。ただし、実際には労働者側もごく一部の例外的な場合を除き、会社の労働環境の改善を考え団体交渉をしていますので、その要求について、法律上応じる必要がないからといって安易に拒絶するのではなく、積極的に検討する姿勢も重要であると考えます。

なお、団体交渉の過程で会社を誹謗中傷するビラをまかれたり、街宣車を出されたりするのではないかといった不安を持たれる方もいるかもしれませんが、それらは労働組合にとってコストのかかることですので、団体交渉において法律上適切な対応をしている限りは、そこまでのことが起こる可能性は経験上ほとんどありません。

団体交渉の申入れがあれば以上のとおりの対応をしていくことになるのですが、実際には、要求事項や会社の対応が法律上正しいのか否か、実際の交渉の際にどのような対応をすべきかなど、交渉の流れの中で多種多様な疑問が発生すると思いますので、団体交渉の申入れがあった際には、直ぐに弁護士に相談することをお勧めします。