4 医療機関に対する責任追及(損害賠償請求)

(1) 示談交渉、調停、医療ADR

医療機関に対する責任追及として、具体的には、まずは内容証明郵便により医療機関に損害賠償の請求を行うことになります。この段階で相手方が任意に請求に応ずることは稀ですが、解決に向けた任意の示談交渉が行われる場合もあります。

なお、上記は患者側と医療機関側の直接の交渉ですが、例えば裁判所や弁護士会等といった第三者が関与する手続きで交渉を進めることも可能です。
簡易裁判所の「民事調停」が代表的ですが、私自身「和解あっせん人」に登録している「民間総合調停センター」の「和解あっせん手続」にも、医療過誤関係の申立てが毎年一定数あります。このような「医療ADR」を利用しての解決も選択肢の一つとなります。3名の和解あっせん人により手続きが進められますが、医事紛争事案の場合和解あっせん人のうち必ず1名は医師が選任されるようにになっています。

(参考)http://minkanchotei.or.jp/index.html 「公益社団法人民間総合調停センター」

(2) 民事訴訟

上記のような手続にて医療機関側との合意が成立しない場合には、患者側としては「民事訴訟」を提起することとなります。

訴訟は「損害賠償請求」、すなわち、金銭の請求という形式をとります。それが認められるかどうかを判断するために、医療機関の「過失」の存否が裁判所によって審理されることになります。
医療過誤の裁判は専門的であり、代理人弁護士も裁判官も審理の経過と平行して医学知識を補充しながら審理を進めてゆくので、通常の裁判より時間がかかります。
また、患者側である原告代理人にとっては、医療の専門家である相手方医療機関の担当医師の尋問などは非常に難しく、かなり負担がかかる業務といえます。

最終的には、裁判所が選任した医師である鑑定人の鑑定が行われることが多く、実際上はこの鑑定の結果次第で訴訟の帰趨が決せられるケースが多いといえます。

鑑定人を引き受けてくれる適切な医師が少ないことや鑑定医が多忙なため鑑定に時間がかかりすぎること、また、鑑定人そのものが相手方と同じ医師であって、ややもすれば相手方医療機関をかばいがちであることなど、鑑定にも各種の問題点がありますが、この点は、近年は裁判所や代理人弁護士の努力により相当程度改善されている状況にあります。

なお、大阪地方裁判所においては、医事紛争を集中的に扱う「医事部」が現在3か部(第17、第19、第20民事部)あり、「大阪地方裁判所医事部の審理運営方針」に則り、効率的な審理の運営がなされているところです。

(参考)http://www.courts.go.jp/osaka/vcms_lf/310001.pdf 「大阪地方裁判所医事部の審理運営方針(ダイジェスト版)」

提訴から2年、事案によってはそれ以上の年月を経て、第1審の判決が下されることになります。また、第1審の判決に不服のある当事者は控訴、さらには最高裁判所への上告(上告受理申立て)という手続きを行うことができます。
また、一旦提訴となっても、その審理の途中において、随時、「和解」という形で事件が解決することもあります。

5 最後に

以上述べてきましたように、医事紛争事案を法的に適正な解決にまで導くためには多くの困難が伴います。

本来「病」という人間の苦痛を取り除くことを目的として行われたはずの医療により、逆に、さらに苦痛がもたらされるという不条理さ、悲惨さが、この医療過誤事案の根底に横たわっています。また、日頃主観的には善意の医療を行っている医師であっても、人間である限り医療ミスから完全に自由であるという保障はありません。その場合医療ミスを起こした医師にとっても悲劇であるといえます。

この極まりない不条理さ、悲惨さに対し、法は適切な解決を本当に与えることができるだろうか、このような医事紛争事案を受任する際いつもそのような疑念がつきまといます。

患者側は、このような医事紛争において、原状回復、真相解明(責任の明確化)、反省と謝罪、再発防止、損害賠償などを求めます。その中には根拠のあるもの、根拠のないもの、実現できるもの、実現できないものが混在しています。患者側でも冷静で理性的な対応や、医療に対する理解が必要といえます。

また、医療機関の側でも、このような医療事故(医事紛争)を未然に防ぐため、まずは患者との信頼関係の醸成に努め、患者に対し診察方針や経緯を詳しく説明するなど、インフォームド・コンセント(説明義務)をきちんと履行し、承諾書やカルテなどの記録に残す、診療に関する患者との認識の隔たりを減らす努力をする、あるいは、転倒・転落や誤投薬などのヒヤリハット事例を検討し、原因分析し、対策を立てるなど組織的な事故防止に努めるとともに、医師の知見・技量を不断に高める努力(医師の研鑽義務)をしてゆく必要があるでしょう。

さらに、医療事故を起こしてしまった後の対応としても、患者や遺族に対する最初の言動に注意し、感情的にならず、経過説明をきちんと行こと、病院内に安全委員会(調査委員会)などを作り、外部有識者や顧問弁護士を委員に入れるなどして組織として対応し、そこで出た結論を患者側に提示し、説明するなどの努力がありうると思います。

訴訟はあくまで「最後の手段」です。

医療機関側において医療レベルの向上、医師や看護師等医療従事者個人の研鑽等医療事故低減の努力が求められることはいうまでもありませんが、患者側と医療機関側の相互の理解の促進により、本来必要性のない医事紛争が極力防止され、回避されることを真に望みます。

(終了)