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2023/10/27 トピックス

不正競争防止法2条1項1号と商品形態(弁護士川村和久)

不正競争防止法の定める「不正競争行為」の一つとして、「周知表示混同惹起行為」があります(同法2条1項1号)。

これは、周知な他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用したり、あるいは、その商品等表示を使用した商品を譲渡したり、輸出入したりして、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を規制するものであり、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を保護することを目的とするものです。

「商品等表示」とは、商品の出所や営業の主体を表す表示のことですが、具体的には、①人の業務に係る氏名、②商号、③商標、④標章、⑤商品の容器・包装等をいいます。

「周知」とは、「需要者の間に広く認識されている」ことをいいます。必ずしも日本全国で認識されている必要はないですが、対象となる表示について他人の信用が蓄積されたと評価できる程度に知られていることを要します。実際の裁判では、宣伝広告の量・頻度、範囲や、商品・営業の取引の実績・規模などから、この「周知性」を立証します。需要者のアンケート結果が利用されることもあります。実際のところ、この立証はかなり難しく、私が過去に担当した案件でも、海外旅行のお土産のお菓子のパッケージのデザインが問題となった事案でしたが、仮処分では周知性が認められたにもかかわらず、本訴では、残念ながら逆の結論になってしまった事例があります。提訴前にこの周知性の立証が成功するかどうかを予測するのは、微妙な事案では相当に難しいものがあり、慎重な吟味を要します。

なお、この条文は、例えば、自社の用いている商標が周知となっている場合に、その商標と同一または類似の表示を用いた商号(企業名)で営業している会社に対し、その商号(企業名)の抹消登記を求める場合に使うことができます。商標権侵害を理由とする商標法に基づく請求では、商品の販売等の差止めは請求可能ですが、商号の抹消登記までは求められないため、ここに不正競争防止法を活用する余地があります。

ところで、「商品等表示」の説明は上記したとおりですが、この中に「商品の形態」も含まれるのかという問題があります。というのは、「商品の形態」というのは本来は商品としての機能・効用の発揮や美観の向上のために選択されるものであり、商品の出所を表示する目的を本来的に有しているものではないからです。

ただ、これまでの確立した裁判例によれば、①特定の商品の形態がきわめて特殊独自である場合、あるいは、②特定の商品の形態が独自の特徴を有し、かつ、この形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間であっても強力な宣伝を伴って使用されることにより、その形態自体が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、「商品等表示」として保護の対象となり得るとされています。

過去には、リーバイスのジーンズのバックポケット部分の弓形のステッチ模様や、ロレックスやカルティエの時計の形態が周知商品等表示に該当するとされた裁判例があります。

また、短期間でも強力な宣伝等がなされたことにより周知性が認められた例としては、少し古いですが、バンダイのゲーム機である「たまごっち」の裁判例があります。

これらの例を見ていましても、商品形態を周知商品等表示であると裁判所に認めてもらうためには、相当高いハードルがあると言わざるを得ないのですが、先日のトピックス「ネット販売とデッドコピー対策」で触れました不正競争防止法2条1項3号のデッドコピー規制の条文の活用については「3年」という期間制限がありますので、その保護期間をすでに経過してしまっている場合、もしその商品の形態が「周知商品等表示」に該当するといえれば、他社の類似形態の商品の販売等を差し止めることがなおも可能であり、この条文を活用する余地があります。

かなり高いハードルがあることは事実ですが、不正競争防止法は、文字通り、事業者間における不正な競争を防止して、公正な競争秩序を形成・維持することを目的としている法律です。

ライバル会社の行為が余りに悪質な場合は、裁判所もそのような行為の「悪性」に着目したうえで、「法律」という「物差し」を多少「伸び縮み」させたうえ、全体的な価値判断をしてくれる可能性もありえないことではありません。一つの選択肢としてなおも検討に値するものと考えています。

このような事案でお困りの場合には、容易に諦めることなく、一度当事務所にご相談いただければと思います。

(初出 2015年320日)